マニエリスム展 ―マニエリスムな画家たち―

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はじめに

はじめに

史塾ART GALLERY 企画展第1弾 「マニエリスム展 ―マニエリスムな画家たち―」

 16世紀半ばのイタリアにほんの一瞬、ルネサンス(古典主義)とは明らかに異なる絵画の潮流が生まれました。

 マニエリスムです。

 16世紀半ばというのは、盛期ルネサンスのあと、つまりあの芸術を完成させたともいえるレオナルド=ダ=ヴィンチやラファエロ、ミケランジェロらのあとの時代といえます。彼らの活躍を受けて、芸術家たちは途方に暮れてしまいます。「この数々の最高傑作のあとで我々にいったいなにをどーしろと…」。さすがにあの天才たちのあとではハードルは高すぎてやりにくいですね。ダウンタウンのあとに漫才やれと言われているようなものですよ。ではもしそうなったらあなたはどうしますか? 全く新しい漫才は恥ずかしくてとてもできないですよね。私ならおそらく…ダウンタウンの2人を引き合いに出してイジるか、松ちゃんのボケ方や浜ちゃんのツッコみ方を真似するんじゃないかと思います。要するに彼らにアヤかることぐらいしかできないんじゃないでしょうか。そう、画家たちはひたすら巨匠たちの手法を真似して誇張していきます。ミケランジェロらが完成させた「手法・様式(=マニエラ)」を拡張・変形・引用することで発展させたのがマニエリスムなのです。この言葉から模倣作品に対する蔑称「マンネリズム」は生まれたんですね。

 「作法」は「マナー」です。「作法」というのは美しく完成された動作ですが、それは時として滑稽にみえてしまいます。偉大な先人たちを真似しつつもなんかどこかギコちない…そんな頑張る画家たちの作品をご紹介しましょう。

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十字架降下
フィオレンティーノ

十字架降下

by. フィオレンティーノ

初期マニエリストのフィオレンティーノ《十字架降下》です。
これはキリストの亡骸を降ろしていく悲しみのシーンですが、どのような印象を持ちますか?では、もう1枚同じ主題のものを見てみましょう。

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十字架降下
ポントルモ

十字架降下

by. ポントルモ

同じく、初期マニエリストのポントルモ《十字架降下》です。
2つの作品に共通するのは「重量感のない人物描写」といえます。なんかふわふわ浮いた印象、曖昧な印象ではないですか? この「不安定さ」こそがマニエリスムの特徴です。この時代は新大陸の発見や宗教改革が始まった頃、つまり既存の価値観・権威が崩壊していった時期です。そんな人々の不安な心が反映されているわけです。…が、個人的には、このなんともおぼつかない感じは、画家自身の「巨匠に対する恐れ」「自信のなさ」が出ているのかなとも思います。「レオナルド=ダ=ヴィンチよりもいい絵なんて描けないよ…自信ないなー…」とかブツブツ言いながら描いてたんですかね…そう考えるとマニエリストってかわいくないですか?(笑)

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首の長い聖母
パルミジャニーノ

首の長い聖母

by. パルミジャニーノ

続いて、初期マニエリスト、パルミジャニーノの《首の長い聖母》。
聖母も幼児のキリストも宙にユラユラと浮いているようです。ここにも「不安定さ」が見られますね。そして、この絵では聖母の姿がビヨーンと引き伸ばされて「S字曲線」を描いています。これもマニエリスムの特徴です。これはミケランジェロの《ダヴィデ像》にも見られるような、コントラポストと呼ばれる片足に重心をかけた立ち姿を誇張したものです。膝に抱かれた幼児のキリストも同様に描かれています。背景にいる人物はやたら小さく、聖母はやたら大きく描かれていますね。レオナルド=ダ=ヴィンチらの遠近法を極端にしたものです。こうしてマニエリスムな画家たちはひたすら巨匠のテクニックを誇張していくわけです。

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キリストの磔刑
エル・グレコ

キリストの磔刑

by. エル・グレコ

マニエリスムには、こうした誇張による身体の「ねじれ」がしばしば見られます。この作品もそうですね。エル・グレコの《キリストの磔刑》です。グレコもマニエリストにあたります。

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無原罪の御宿り
エル・グレコ

無原罪の御宿り

by. エル・グレコ

こちらもグレコの作品《無原罪の御宿り》。グレコのこのわちゃわちゃ感はなんだかいいですね。マリア様なにかに吸い込まれているみたいです。天才たちのあとですからオリジナリティを出そうと必死なんですよ(笑)

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サヴィニの女の略奪
ジャンボローニャ

サヴィニの女の略奪

by. ジャンボローニャ

もはや「ねじれ」ありきで制作しているのが、彫刻家ジャンボローニャの《サヴィニの女の略奪》。ねじりすぎてねじりパンみたいになってる(笑)これはやりすぎ!

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愛の寓意
ブロンズィーノ

愛の寓意

by. ブロンズィーノ

 さて、中期マニエリスムに入るとまた異なった特徴が出てきます。宮廷画家として活躍したブロンズィーノの代表作《愛の寓意》を見てみましょう。この作品にあるような「寓意表現」の多用もマニエリスムの1つの特徴です。

 この女性はヴィーナスで、それを示す寓意がたくさん描かれています。例えば左手には「黄金のリンゴ」を持っています。パリスの審判でヴィーナスが獲得したものですね。そのそばに描かれているぷりケツの少年はキューピッド。めちゃめちゃ胸揉んで接吻してますが、実はヴィーナスの息子です。イケないことしてるわけです(笑)両者の冷淡な表情と体の曲線美は怪しげなまでにエロティックですね。右側の男の子もキューピッド。ヴィーナスの寓意である「薔薇」を持って「もっとやれ縲怐vとあおってます。この子は「快楽」の寓意とされています。よくよく見ないとわからないんですが、右足では棘を踏んでいます。「快楽」につきものの「痛み」を表しています。左下には「鳩」。これは平和の象徴として描かれることもありますが、「多産・貪欲」の象徴として描かれています。この絵には怪しげな人もいますね。右のキューピッドの裏には下半身が蛇の女の人が軽蔑の眼差しをむけています。これは「欺瞞」の寓意。その下にある2つの仮面は「偽り」の寓意。左で頭を抱えているのは「嫉妬」の寓意。これら全てを暴き出しているのが背後のジジイとオバハン。ジジイは「時」の寓意、肩に砂時計が乗ってますね。オバハンは「真理」の寓意です。はー疲れた。。。寓意表現をすりゃいいってもんじゃないですよ…これがマンネリってやつです。

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ガブリエル・デストレとその妹
フォンテーヌブロー派(作者不詳)

ガブリエル・デストレとその妹

by. フォンテーヌブロー派(作者不詳)

宮廷人や知識人は寓意を読み解くことに喜びを感じていたようです。マニエリスムは、フランスではフォンテーヌブロー派がそれにあたりますが、例えば寓意画《ガブリエル・デストレとその妹》はその代表作です。ここまでくるとわけがわからない。

 まず、ガブリエル・デストレといえば、ブルボン朝の創始者アンリ4世の愛人です。彼女との逢瀬のために王は重要な作戦を延期したといいますから相当なご執心。で、なんで乳首つまんでんのかといいますと、どーやらこれは母性を表していて、ガブリエル自身の懐妊を意味しているとか何とか(わかんねーよ!) 奥の女性は生まれてくる子の産着を縫っています。そしてよく見ると右の女性の左手には指輪を持っています。アンリ4世は正妻と離婚し、このガブリエルとの結婚を目論んでいたというので、その暗示なのかもしれません。

 この絵が描かれたのは1594年で、アンリ4世もガブリエルも生きてます。これを見てガブリエルはどう思ったのでしょう? 怒らなかったのでしょうか? 結婚を示唆する絵ですからねぇ、かといって裸体を描かれてもねぇ……むー…。ガブリエルはこの5年後、28歳で急死します。毒殺説もささやかれたようです。不思議な絵ですね。

 さぁ、いかがだったでしょうか。
 天才たちのあとのやりにくい空気の中でわたわたしている感じ、頑張っているんだけどちょっとギコちない、試行錯誤してるけどなんだか滑稽、そんなマニエリスムなかわいい画家たち、私はけっこう好きですけどね(笑)

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